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宇都宮地方裁判所 昭和39年(ワ)204号 判決

原告 上村典子 外二名

被告 金谷博 外一名

主文

一、被告等は、連帯して、原告上村典子に対し金三〇万円、原告上村五夫に対し金一七万六、二六一円、原告上村シゲに対し金一〇万円を支払え。

二、原告等のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は被告等の負担とする。

四、本判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の申立

原告等訴訟代理人は、「被告等は連帯して、原告上村典子に対し金一〇〇万円、原告上村五夫に対し金二八万五、一九一円、原告上村シゲに対し金二〇万円を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、被告等訴訟代理人は、「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者の主張

(請求原因)

一、原告上村典子は原告上村五夫と同上村シゲの長女で当時満八才であり、訴外金谷勝巳は被告等の長男で当時満一三才である。

二、昭和三九年三月二七日午後一時三〇分頃、原告上村典子は学校から帰宅の途中、宇都宮市大曾町地内の田川べりにおいて、訴外金谷勝巳が堤防の上から投げた牛乳ビンの破片を左眼にうけ、眼球刺傷の結果、虹彩脱出および外傷性白内障を起し、そのため典子は昭和三九年三月二七日から同年四月二六日まで原眼科病院に入院し、治療の結果外傷は回復したが、左眼球に癒着性白斑が残り、そのうえ視力は、右一・二に対し、左は〇・四となり、且つ〇・六×凹乱一・五の乱視となつた。

三、典子の右負傷は訴外勝巳の過失によるものであるが、勝巳は当時責任無能力者であつたから、被告等は勝巳の法定監督義務者として、民法第七一四条に則り、勝巳が前記行為によつて原告等に与えた損害を連帯して賠償する責任がある。

四、本件負傷によつて原告等が蒙つた損害は次のとおりである。

(一) 原告上村五夫は、典子の治療費等を次のように負担した。

(1)  入院治療費 金一万六、五四三円

(2)  薬品代   金二万七、九五〇円

(3)  炭代      金一、二〇〇円

(4)  牛乳代     金三、六九〇円

(5)  食事代   金二万〇、三二三円

(6)  車代        金五〇〇円

(7)  付添人費用   金二、〇〇〇円

(8)  雑費      金二、三六〇円

(9)  快気祝費用 金一万〇、六二五円

以上合計   金八万五、一九一円

(二) 原告上村典子は、本件負傷によつて生まれもつかぬ片輪になり、視力の減退と乱視は将来の生活に影響し、また女子であるだけに将来婚姻するに際し重大な影響を及ぼすものであつて、将来への希望が無残にも打ちくだかれたと言つてよく、その精神的打撃は、今日よりもむしろ成長後に大なるものがあるので原告典子の慰藉料は金一〇〇万円を相当とする。

(三) 原告上村五夫と同上村シゲは父母として、典子の前記傷害により甚大なる精神的苦痛を蒙つたものであるから、同人等の慰藉料はそれぞれ金二〇万円を相当とする。

五、よつて、被告等は連帯して、原告上村典子に対し慰藉料一〇〇万円、原告上村五夫に対し治療費等金八万五、一九一円と慰藉料二〇万円、同上村シゲに対し慰藉料二〇万円を支払う義務がある。

(請求原因に対する答弁および被告等の主張)

一、請求原因第一項は認める。第二項中、原告等主張の日時に原告典子が負傷して入院したこと、及び典子の現在の視力の点は認めるが、その余は争う。第三、第四、第五項は争う。

二、本件事故の発生状況は次のとおりである。当日午後一時三〇分頃、被告等の長男勝巳(陽北中学一年生)は級友三名と共に学校から帰宅の途中、牛乳の空ビンを拾つて事故現場に差しかかつた際、級友等がそれぞれ右空ビンを道路から田川の護岸のコンクリート(傾斜約三〇度)に叩きつけて遊んだので、勝巳は最後に真似して叩きつけたところ、折悪しく約八メートル下の川の中洲で遊んでいた原告典子の左眼に破片の一部が当つたものである。

三、原告典子の負傷は原告側主張のとおりであるが、元来典子の視力は、昭和三八年五月一一日の学校における健康診断の時は、右一・〇、左〇・九であつて、本件事故のため視力が減退したと直ちに断ずることはできないし、また治療の経過からみると視力は漸次良くなる傾向にあり、被告側で心配の余り専門医に尋ねたところでは、本件程度の視力は眼鏡を使用すれば足り、身体障害者とまでは言えないとのことである。

四、本件事故に対し、被告側では次のような措置をとつた。

(1)  勝巳は、事故後直ちに典子を東小学校(同人の通学校)に連れて行き、先生に事情を話して応急手当をしてもらい、更に原告方に送り届けた。

(2)  入院中の見舞

(イ)、三月二七日、入院の時、被告博(当時県立商業高校教諭)と同志津は勝巳と共に病院に見舞いに行つた。

(ロ)、三月二八日、被告博がカステラ(五〇〇円相当)を持つて見舞う。

(ハ)、三月二九日、被告博と同志津がオルゴール(九五〇円相当)を持つて見舞う。

(ニ)、三月三〇日、被告博が見舞う。

(ホ)、三月三一日、被告博が見舞う。

(ヘ)、四月一日、被告志津がバナナ(四一〇円相当)を持つて見舞う。

(ト)、四月四日、被告博がネグリジエ(七五〇円相当)を持つて見舞う。

(チ)、四月八日、被告博が卵(二〇〇円相当)を持つて見舞う。

(リ)、四月一二日、被告博がケーキ(三〇〇円相当)を持つて見舞う。

(ヌ)、四月一六日、被告博がキヤンデー(三〇〇円相当)を持つて見舞う。

(ル)、四月二四日、被告博がクツキー(三二〇円相当)を持つて見舞う。

(ヲ)、四月二六日、被告博がデコレーシヨンケーキ(四五〇円相当)を持つて見舞う。

(3)  退院前後の措置

(イ)、退院前日の四月二五日午後一〇時頃、被告博が金一〇万円を持つて原告方を訪れ、入院費の一部として受取つて欲しいと申入れたところ、原告側では、明日退院の際会計するので、それまで金額が不明であるから受取れないと言つて拒否した。

(ロ)、四月二七日午前一一時頃、被告博が原告方を訪れ、会計が判明したであろうから是非払わせて欲しいと申入れたところ、原告シゲが弟に一任してあると言つて支払を拒否した。

(ハ)、四月二八日、被告博が原告五夫をその勤務先である栃木県庁土木部監財課に訪れ、是非入院治療費を支払わせて欲しいと申入れたところ、同人は、何回もの見舞いで誠意は認めるが、治療費よりも典子の将来が心配だと言つて支払を拒否した。

(ニ)、そこで、被告側ではやむなく、四月二七日から五日二八日までの通院治療費を直接病院に支払つた次第である。

五、被告等の長男勝巳は、性格が真面目で努力型であり、級友の信望もあり、学級の会計係として責任感が強く、成績は二八四人のうち三四番であつたから、本件事故発生当時において責任を弁識する知能を備えていたものと言うべく、従つて勝巳の両親たる被告等に責任はない。

六、仮りに被告等に責任があるとしても、本件事故における勝巳の過失は全く偶発的のものであり、一方原告典子は当時八才で、その母である原告シゲが家を留守勝ちにするため、学校からの帰途に廻り道をして本件事故現場の危険な川の中洲で遊んでいたものであるから、原告シゲにも監督不十分の過失があり、よつて過失相殺を主張する。

(被告等の主張に対する原告等の答弁)

一、被告等の主張第二項において、勝巳が原告典子の存在を知らずに空ビンを投げた如くに言つている点は否認し、その余は不知。

二、同第三項のうち、昭和三八年五月一一日の学校の健康診断の際における原告典子の視力の点は認め、その余は否認する。

三、同第四項の(1) は認める。同項(2) のうち、(ト)を除き、その余の見舞いは認める。同項(3) のうち、(ハ)の被告博が原告五夫を勤務先である県庁へ訪ねて来たことは認めるが、その余は否認する。

四、同第五項は争う。

五、同第六項は否認する。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、原告上村典子は原告上村五夫と同上村シゲの長女で当時満八才であつたこと、訴外金谷勝巳は被告等の長男で当時満一三才であつたこと、昭和三九年三月二七日午後一時三〇分頃、宇都宮市大曾町地内の田川べりにおいて、勝巳が堤防上の道路から川の護岸に投げつけた牛乳びんの破片が典子の左眼球に突き刺さり、同人に虹彩脱出および外傷性白内障の傷害を負わせたこと、そのため典子は原眼科病院に入院して治療を受けたこと、典子の現在の視力は、右一・二に対し、左〇・四で且つ〇・六×凹乱一・五の乱視であることについては当事者間に争いがない。

二、本件事故発生の態様および被告等の長男勝巳の責任能力について争いがあるので、まずこの点について判断するに、成立に争いのない甲第四、第八、第一二号証、証人金谷勝巳の証言、原告本人上村シゲ(第一回)の尋問の結果、被告本人金谷博の尋問の結果、現場検証の結果を綜合すれば、事故現場は田川西岸の堤防上の道路付近で、河岸は約三五度に傾斜した石垣の護岸であること、右堤防上の道路の東側には高さ約七〇センチメートルのコンクリート製の柵があるほかは、右道路上から田川を見おろす方向には視界を遮るものは何もないこと、勝巳は、牛乳の空ビンを川に浮べてそれに石を投げつけて割る遊びをするために拾つて持つていた牛乳の空ビンが邪魔になつたので、典子とその友人平野幸子の二人が「つくし」を取るために河原の中洲に降りているのを認めながら、右空ビンを典子の身体から約五メートル離れた上方の前記傾斜した石垣護岸に投げつけたこと、そのため牛乳のビンの破片が飛散し、その鋭利な破片が典子の左眼球に突き刺さり、左眼球刺傷の傷害を負わせたことが認められる。

ところで、牛乳の空ビンを川の護岸に投げつけて割つたりすることは非常に危険なことで、そのこと自体よくない行為であるが、以上認定のような状況のもとで左様なことをすれば、たとえ牛乳の空ビンを投げつけた所が典子の身体から五メートル程離れた地点であつても、ビンの破片が飛散し、前記傾斜した石垣護岸の下の河原に居る典子等の身体にその破片があたつて重大な結果を生ずるおそれがあることは当然予想されうるところであり、当時勝巳は年令一三才四ケ月の中学一年生で、学校の成績も良い方であつた(甲第二号証、乙第三号証)のであるから、右のようなおそれがあること、および自己の行為から生ずる結果について責任を認識する能力を有していたものとみるのを相当とする。

三、右のように勝巳に責任能力があるとすると、その親権者である被告等に対して民法第七一四条による責任を追及することはできないことになる。

ところで本件においては、偶々未成年者である勝巳を被告にしていないのであるが、しかしながらこのような場合、未成年者に責任能力があるためにその法定監督義務者に責任なしとして、責任能力ある未成年者の責任のみを認めるならば、未成年者は通常賠償の資力を有しない結果、被害者は何らの現実的な賠償を受けることができず、他方、資力ある法定監督義務者は責任を免れることになる。而して、不法行為によつて損害を蒙つた者を実質的な法的保護の埒外におくということは、社会生活のうちに生ずる損害を公平に分配せんとする不法行為制度の近時の理想から考えて、法の趣旨に著しく反する結果を招来することになる。このような見地から考えると、民法第七一四条は不法行為の一般原則である同法第七〇九条を制限し排斥する関係にあると解すべきではなく、未成年者に責任能力がある場合には、単に同法第七一四条による挙証責任の転換がなくなるだけで、被害者側において、加害者の法定監督義務者に監督義務者としての不注意があり、且つそれと損害発生との間に因果関係があることを立証するならば、責任能力ある未成年者の法定監督義務者も亦、一般不法行為の原則たる民法第七〇九条に則り、損害賠償の責を負うべきものと解するのを相当と考える。而して本件においては、原告側から斯る明示の主張はなされていないのであるが、弁論の全趣旨から見れば、斯る主張も含まれているものと解される。

よつて、本件被告等の責任について考察するに、被告等は勝巳の共同親権者であり、未成年者たる勝巳の生活全般に亘つて法定監督義務者としての責任を有するものである。そして成立に争いのない甲第一二号証と証人金谷勝巳の証言によると、当時牛乳の空ビンを川の中に浮べて、それに石を投げつけて割るという危険な遊びが子供等の間で流行つていたこと、勝巳自身も前に二、三回このような遊びをしていたことがあり、当日も右の遊びをするために帰校の途中で牛乳の空ビンを拾つて持つていたが、邪魔になつたので無雑作にこれを護岸の石垣に投げつけたことが認められる。ところで、親権者の監督上の注意義務は未成年者の生活全般に亘るとはいえ、その生活領域の如何により自から注意義務にも程度の差があると考えられるが、本件のように、学校の外における生徒たる未成年者の行動については、親権者に第一次的でしかも高度の注意義務があるものと考える。従つて被告等は、このような生活領域における勝巳の行動については監督義務者としての注意義務を十分に尽すべき責任があり、また被告等の社会的地位(当時被告博は県立商業高校の教員であり、被告志津は洋裁教師であつた。)と生活環境に鑑みると、それが十分可能であつたのにも拘らず、勝巳が以前にも同じような危険な遊びをしていたのに、これに気づかず放置しており、またこのような危険な遊戯をしないようにとの一般的な生活指導をも怠つていたことは、法定監督義務者としての注意義務を怠つた過失があるといわなければならない。もし被告等が勝巳の行動について相当な注意を怠らず、同人に対して適切な生活指導ないし注意を与えていたならば、本件のような事故は未然に防止できた筈であり、この意味において、典子の左眼球刺傷の傷害による損害の発生と被告等の法定監督義務者としての注意義務の懈怠との間には因果関係があると思料される。従つて、被告等は本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

四、次に被告等は、原告上村シゲにも典子の法定監督義務者としての注意義務を怠つた過失があるとして過失相殺を主張するので、この点について判断するに、原告本人上村シゲの尋問の結果によると、事故当日に母たる同人が家を留守にしていたこと、事故現場は通学路からみて多少廻り道になつていることが認められる。然しながら、このことから直ちに原告上村シゲに監督義務者としての過失があつたということはできない。むしろ、小学生などが通学の途中、多少の廻り道などをして帰宅するなどは、通常大部分の子供等が経験するところであるし、当日典子が友達と二人で川の中洲へ降りて「つくし」取りをしていたからと言つて、別段危険な遊びをしていたものとは言えないから、そのことを以て親権者に過失があつたとは言えない。従つて被告等の過失相殺の主張は理由がない。

五、本件事故によつて典子が原告等主張の如き左眼の傷害を受け、原眼科病院に入院して治療を受けたこと、典子の現在の視力が原告等主張のとおりであること、は当事者間に争いがなく、そして成立に争いのない甲第三、第七、第一八号証、同乙第四、第五号証と、証人原審の証言によると、典子は昭和三九年三月二七日から同年四月二六日まで原眼科病院に入院し、以後同年六月九日まで同病院に通院して治療を受けた結果、右の程度に左眼の視力が回復したもので、それ以上に将来視力が回復することは望めず、また眼鏡やコンタクトレンズによる視力の矯正も六ケ敷いことが認められる。

被告等は、典子の左眼の視力減退は本件傷害と直接の因果関係がない、また治療の経過からみると視力は漸次回復の傾向にあり、眼鏡を使用すれば矯正可能である旨主張するが、これを認めるに足る証拠はない。

六、よつて、次に原告等が蒙つた損害について検討する。

(一)  原告上村五夫の物的損害

原告本人上村シゲ(第二回)の尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二〇ないし第七七号証によると、原告上村五夫は典子の本件負傷によつて次のような損害を蒙つたことが認められる。

(1)  金一万六、五四三円(原眼科病院の入院治療費、診断書三通の費用、および渡辺眼科の治療費)

(2)  金二万二、九五〇円(手術後の視力回復のために用いた薬品代、繃帯代等)

(3)  金一、二〇〇円(入院中の木炭代)

(4)  金二、五〇五円(栄養補給のための牛乳代等)

(5)  金一万九、四八〇円(見舞客に対する食事、茶菓子代等)

(6)  金一万〇、六〇五円(見舞に対する返礼、および快気祝の費用)

(7)  金二、九七八円(入院中の諸雑費)

以上合計金七万六、二六一円

原告等が主張する車代五〇〇円、付添人費用二、〇〇〇円については、その額を認定しうべき何等の証拠もないから、これを認容することはできない。

(二)  原告上村典子の精神的損害

成立に争いのない甲第三、第七、第一一、第一六ないし第一八号証、証人原審の証言、原告本人上村五夫、同上村シゲ(第一回)の各尋問の結果、および当事者間に争いのない事実によれば、典子は、本件事故によつて一時は失明の危険にさらされたこと、原眼科病院に入院して治療を受けた結果、外傷は治癒したものの、右眼の視力は一・二であるのに対し、傷害を受けた左眼の視力は〇・四(〇・六×凹乱一・五の乱視)に減退し、それ以上回復する見込のないこと、左右両眼に著しい度数差を生じ、且つ左眼の角膜中央部に癒着性白斑が残つているので、眼鏡使用による視力矯正が因難なため、将来における作業能力や勉学読書等について、計数的にはその程度を確定することはできないが、生活機能上何割かの損失は免れ得ないこと、左眼中央部に癒着性白斑が残つているため黒目(角膜)に縦に白い線が出ていて、この傷痕は外から見ても直ぐ判る程度であること、などを認めることができる。典子は年少ながらも女子であるから、右傷害の部位、程度、傷痕などを考えると、これによつて蒙つた同人の精神的苦痛は甚大なものであつたことが窺われる。

他方、成立に争いのない乙第四、第五号証、証人金谷勝巳、同小池あさの各証言、被告本人金谷博、同金谷志津、原告本人上村五夫、同上村シゲ(第一回)の各尋問の結果および当事者間に争いない事実によれば、勝巳は本件事故直後、典子をその通学校である東小学校に連れて行き、応急の措置を受けさせた後、家に送り届けたこと、典子が原眼科病院に入院した後も、被告等は茶菓子等を持参してしばしば典子を見舞つていること、治療費の負担を申し出ていること、典子が原眼科病院を退院後、同病院に通院加療を受けた分の治療費(四月二七日から五月二八日までの分)を被告等が負担していること、などを認めることができる。

これら諸般の事情を綜合すると、原告上村典子の精神的苦痛に対する慰藉料の額は金三〇万円を以て相当と考える。

(三)  原告上村五夫、同上村シゲの精神的損害

原告上村五夫、同上村シゲの精神的苦痛に対する慰藉料額について判断するに、民法第七一一条はその文理上からみれば、父母等近親者の慰藉料請求権を生命侵害の場合に限つている如くであるが、生命侵害の場合と身体傷害の場合とを区別すべき何らの合理的理由もないから、身体の傷害によつて父母等近親者が社会観念上甚大な精神的苦痛を蒙つた場合には、それが不法行為と相当因果関係を有するものである限り、民法第七〇九条第七一〇条に則り、近親者も亦固有の慰藉料請求権を有するものと解するを相当とするところ、前記認定のように、典子の左眼は本件負傷によつて一時失明の危険にさらされ、入院治療の結果外傷は治癒したものの、視力は減退し、その回復の見込はなく、剰え癒着性白斑という後遺症を角膜に残していること、典子が右原告等の一人娘であること、傷害の部位が眼球であることなどを合わせ考えると、典子の父母である原告等の精神的苦痛は想像以上に甚大なものであつたことが窺われるから、本件に現われた諸般の事情を考慮すると、原告上村五夫、同上村シゲの慰藉料の額はそれぞれ金一〇万円を以て相当と考える。

七、よつて、右の限度において原告等の請求を認容し、その余は棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、第九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石沢三千雄)

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